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石田梅岩『都鄙問答』|読書感想 小坂航

  • 執筆者の写真: kosakawataru6
    kosakawataru6
  • 4月30日
  • 読了時間: 3分


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石田梅岩『都鄙問答』


「都鄙問答」は、商人をはじめとする人々が抱くさまざまな問いに対し、梅岩が儒教・仏教・神道の教えを軸に応答していく問答形式の書である。


そこに記されているのは、商売における単なる儲け話ではなく、“商売とは何か”“人としてどう生きるべきか”という根源への対話だった。


まさに、商道である。


学校を卒業して以来、一人で商売をしてきた私にとって、石田梅岩の思想は、自らの在り方を見つめ直す原点のような存在となった。


都鄙問答を読み進める中で、「今の世の中はどうだろうか」と考え直した。


最近、あるトレーナーがこう語っているのを耳にした。

「これからは移民が増える。だから外国人市場に目を向けるべきだ」と。


たしかに、時代の流れとしては正しいようにも聞こえる。だが私は、こうした発言に違和感を覚えた。


もし商いに“道”としての姿があるなら、そもそも、なぜ移民が増えているのか。日本という国のかたちが壊れていかないか。そうした問いを抱くはずだ。


同じように、見た目ばかりを重視するトレーニングもまた、人類の本質とは関係のない、グローバリズムに適応するために作られた商売なのではないか。


その一方で、松下幸之助や出光佐三のように、商いを“道”として生きた大人物もいた。


松下幸之助は、戦後の焼け野原となった日本において、「まず物質的な豊かさを取り戻すこと」が国の再生になると考えた。

出光佐三は、激動する国際情勢の中で、命懸けで日本の独立を支える石油の確保に力を注いだ。


それは、“時限立法”のように、「時代が求めること」と「自分にできること」の交差点に立ってなされた。ここでいう“時代が求めること”とは、流行に乗ることではなく、“国の憂い”に応えるということだ。


しかし、現代の商売はどうだろうか。


ただ時代の流れに乗り、「流行を作り」「数字を追い」「見栄えを整える」ことばかりが先行している。

そして、その流行を生み出すために、“インフルエンサー”という存在もつくられた。

だが、本来“影響力”とはそういうものだっただろうか?


かつて人々に深く影響を与えた存在とは、たとえばキリストや釈迦のように、常に真理へ、人類の根源へと語りかけていた者たちだったはずだ。


私は、このような“流行と数字”が優先される風潮が、私自身が身を置く健康業界・トレーナー業界にまで深く浸透していることに、強い危機感を覚えている。


それは、健康やトレーニングの世界にまで浸透してしまった、物質主義の問題だ。

筋肉量や見た目、数値といった外側の指標ばかりに振り回され、「肉体第一」の健康観が、ごく当たり前のように語られるようになってしまった。


だが、本来健康とは生命を燃焼するために必要なだけであるはずだ。


なぜ私たちは、生命を燃やすように生きるべきなのか。その問いを突き詰めていくと、結局のところ“神”という表現に行き着くのかもしれない。

それは、人類の根源へと向かって歩むことだ。


だからこそ、梅岩は商売という現実的な行為の中にさえも、一貫して人類の根源だけを見つめていたのだと思う。


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